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    【無料全文公開】夢とうつつが交差する、見えない街への案内図。鷲崎健 5thアルバム『えくぼヶ原飄夢譚』全曲インタビュー①(永井慎之介)

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    2025/09/01 19:00

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    2024年9月に募集を開始し、目標金額の3倍にせまるおよそ1億3千万円の支援を集めた、鷲崎健生誕50周年記念クラウドファンディング。これにより、実に9年ぶり5枚目となる待望のニューアルバム『えくぼヶ原飄夢譚』が制作され、7月23日に一般発売を迎えた。

     

    自身の番組『鷲崎健のアコギFUN!クラブ』内で少しずつ弾き語りで披露され、当時からファンの間で話題となっていた本作の収録曲。

     

    従来の楽曲とは大きく色彩を異にし、まさに夢とも現実ともつかない不思議な物語たちが詰め込まれ、自身も改めて「とても気持ち悪くて美しい作品」と評する本作。その完成までの道のり、豪華ゲストたちとのエピソード、そして全19曲ひとつひとつを振り返り、話を聞いた。

     

    (取材・編集:永井慎之介)

     

     

    未だに自分で聞いても「変なの」って面白がれている

     

     鷲崎健です(笑)よろしくお願いします。


    ——よろしくお願いします(笑)。クラウドファンディングの支援が始まったのが、昨年2024年の9月。支援者用Discordの開設まで遡ると、2022年9月でした。


     とんでもないね(笑)3年近く経ってるってことだもんね。


    ——『アコギFUN!』の音源集(クラウドファンディング返礼品『えくぼヶ原飄夢譚 鷲崎健のアコギFUN!クラブ 公開時音源集』)を見ると、2021年初披露という楽曲もありました。まずはそうして世に出た、今のお気持ちから伺えますか?


     なんだろうね……俺は割と極端に、自分の楽曲・自分の音楽活動に、多分あまり大きく興味を持ってないんだと思うんだよね。作ってるときとか、ライブで披露しているとき、それをレコーディングしてるときまでは楽しいんだけど、それが世に出たら「わっ、出たかあ……ひとが聞いてんだあ……」くらい。もちろんいろんな人が関わっているから、売れてほしい、売れてくれたほうが助かる。売れなくていいものなんてひとつもないけど、「感慨深いなあ」みたいなやつがね、ちょっと希薄。これはでも、昔からずっとなんだと思う。

     

    ——携わってくれた人のためには、売れたほうがもちろんいいけれど。

     

     クラウドファンディングって難しくて、集めたお金っていうのはみんなにお返しするためのものなので、クラウドファンディングで売れても基本的に事務所は潤わないんだよね。なので一般発売になってからの売上がやっと事務所の取り分になるんだけど……儲かんないだろうなあと思って(笑)。クラファンが盛り上がれば盛り上がるほど、「わあ、嬉しいけど……盛り上がれば盛り上がるほど事務所には取り分ないなあ」って(笑)。

     

    ——(笑)そういう感覚なんですね。

     

     うん。まあ契約の仕方とかいろいろあるらしくて、全部が全部そうじゃないんだけど。俺はもうお金のことには何も携わらず、bamboo(本作のクラウドファンディングのキュレーター)が全部やってくれて。「俺、何したらいい?」って聞いたら、「お前はただ神輿の上にいたらいい。神輿の上で、神様然としていればいい」って言われたから、「わかった!」って。はっきり言ってアレンジだってほとんど稔さん(内田稔。本作のサウンドプロデューサー)が頑張ってくれた。

     

    ——そうでしたよね。

     

    「鷲崎さんは『音楽をもっとこうしたい』っていう言葉を知らない人だから、それは全部僕が伝えます」。一番近くにいて、一番俺の音楽の好みも知っているので、「違う違う、鷲崎さんはもっとこう、こういう感じ」って、俺のところに来る前に(笑)言ってくれた。

     

    ——人の手を介して、作品たちがどんどん遠いところに行く感じですね。

     

     そう! それが楽しいんだよね。ポアロ(鷲崎健と伊福部崇のユニット)のときなんかは、アレンジャーさんにアコギで弾いた音源渡して、「コテンパンにしてください」って……昔ね、まだラフィン(杉浦"ラフィン"誠一郎。1st〜4thアルバムまでアレンジ・ディレクション全面を、本作ではボーカルディレクションを担当)が関わる前は言ってて。一回だけ、本当にとんでもなくコテンパンのものが返ってきて、「ごめんなさい、これはやりすぎです」って戻したこともあるんだけど(笑)。


     自分ではやっぱりアレンジに対して……これはダメな癖だけど、「えっ、このデモ聞いたらわかるでしょ?」、「俺が本気で弾いたこれ、聞いたら大体なんとなくわかるよね?」って勝手に思っちゃって。バンドマンだったらわかるかもしれないけど、アレンジャーはちょっと違うのかもしれないね。

     

    ——そうなのかもしれないですね。鷲崎さんご自身は、曲に対しての愛着っていう意味ではどうですか? ありますか?

     

     えっ。そりゃあるんだと思うんだけど……どういう種類の?

     

    ——オンエアだからなのかもしれないですけど、「気持ち悪い曲だよね」とか「一回ボケ終わってるしね」っていう紹介の仕方をよくされるので、そんな鷲崎さんと曲自体との関係性って、どうなんだろうかと。

     

     他人とは比べられないけど……でもどっちも全然嘘じゃないな。「気持ち悪いな」も嘘じゃないし、一回ボケ終わってるしね(笑)。本当にライブで一回しかやってない曲ばっかりが入ってて……。愛着はとてもあるんだと思うが、「くれ」って言われたらいくらでもあげる。この間、遠藤正明さんから「『おかえり太陽』くれよ!」って言われたから「いいですよ」。

     

    ——あげちゃったんですか(笑)。

     

     いいよとは言ってるけど……本人が歌うんだったら全然。愛着ってなんだろう、難しいね。でも「俺にしか作れないだろうな」という自信みたいなものはどこかであると思うので、それを愛着と呼ぶなら愛着なのかなあ。


     自分で曲を作る人はみんなそうかもしれないけども、音楽が好きで、好きなバンドとか好きな曲があって、「俺もこんな曲作れたらな」と思った瞬間に、その曲を絶対に超えることはなくて、「超えれないなあ」というのをどこかで気づいて。俺の好きな人……RCサクセションとか憂歌団とか憧れたけど、自分のフィジカルも喉もあんなのじゃないし、結局自分のオリジナリティみたいなものに向かい合って。でも本当に一番最初に憧れたのは、俺のオリジナリティでもなんでもない、俺から遠くにあるもので、「ああ、あれにはなれなかったなあ」。でもみんな思ってるのかね?

     

    ——どうでしょう。個人的には、「憧れであるということの切なさ」みたいなのはそんなになくて。

     

     ああ、そうなんだ。

     

    ——「いろいろ憧れちゃったから、それらをミックスして何かに昇華しちゃおう」っていうのが自分の中では。

     

     俺は一番最初が濃かったもんだから。すごく太いマジックでそのふたつを書いちゃったもんだから。もちろん今、「俺はああはなれなかったなあ」っていう寂しさとか挫折があるわけでは決してないんだけど……なんせ真面目に音楽に向かい合ってないし。だけど自分の出したもの、特に今回のアルバムは、ぐちゃぐちゃっとしたままぐちゃぐちゃっと出しちゃったんで、自分で自分の楽曲に対する点数がつけづらい。

     

    ——それぞれの曲で採点基準が全然違う感じもしますもんね。

     

     面白いとは思うし、未だに自分で聞いても「変なの」って面白がれる部分がある。今までのアルバムは、リリースされて2〜3回聞いたらもう、それからはあんまり聞かないの。ずいぶん経ってから聞き直して、「ほうほう、なかなかやるじゃん?」ってなったりはするんだけど(笑)今回のアルバムは割とまだ、聞けるね。聞いて面白がれて、「面白い歌歌うねえ〜鷲崎さん!」って思ってはいる。

     

    ——比較的よく聞かれている。

     

     でもね、マスタリングが済んでから1ヶ月ぐらいは、一回も聞かなかった。クラファンでみんなの手元に届きだしてから、ちょこちょこっと聞きだした感じかなあ。いっぱい聞いたし(笑)。

     

    ——そうですよね(笑)誰よりも聞かれましたよね。

     

     そうそう。だいたいそんな感じで、自分のアルバムとは距離を置くんだけど、今回は割と面白がれてる。間は置いたけどね。

     

    トラッドなメロディと、ヘンテコな詞。俺の今のモードはそれかも

     

    ——そうして今、リスナーに届いていって。それこそ先日の『スイトカ(粋狂トカトントン #16)』もそうだったと思うんですが、反響は鷲崎さんにはどういうふうに届いてますか?

     

     反響かあ……うーん。そうだね、今までとずいぶん違う割には、「今までと全然違う」ってあんまり言われないなと思って。俺の中では割と今までと全然違う……全然でもないのか?

     

    ——まあ、『冗談で死んだ友人の話』とかありますもんね。

     

     そうだねえ。『冗談で死んだ友人の話』と『チビでブス』を入れようとしたら、「頼むからどっちかにしてください」って社長から言われた(笑)。泣く泣く『冗談で死んだ〜』にしたんだけど(4thアルバム『What a Pastaful World』)。でもやっぱ肌触りも、一枚通して浮かぶイメージも、今までとは少し違うものになったなと自分では思ってるんだけども……「違う」とはあまり言われない。そんな変わらないのかしら。

     

    ——『アコギFUN!』で割ともう、みんな受け入れてるのかも。

     

     そうか。そうかもしれないね。

     

    ——でもそうして新曲を続々作られた時期があったじゃないですか。それらを一枚にまとめるとなったとき、最初にどういうふうにイメージしましたか?

     

     イメージはあんまりなくて。アルバムに入らなかった曲もあと10曲ぐらいある。本当にバーッと作った曲たちなので、どれがよくてどれがよくないか、俺にはわかんないの。


     最初は『移動式正月団』も入れる予定じゃなかった。佑磨(青木佑磨。学園祭学園)がめっちゃ好きだって言うから入れたの。それくらい全部が全部、割と等距離で。『世界の終わりのポラロイド爺さん』とかは、よくできたなあという手応えというか、気に入った部分があったけど、『ロックンロール・マーメイド』なんかは物語ではあるけども、ちょっとあまりにもかなあ、とかも思ったりしたし。「絶対これを入れる」みたいなやつはあんまりなくて。bambooが『ロックンロール・マーメイド』を聞いて「絶対これ入れろ、絶対これを聞きたい」って言ったから入れた。


     そんなことしてると19曲になっちゃって、俺はとりあえず事務所に19曲持ってって。こっからみんなで精査するんだと思ってたら……「よし、じゃあ19曲でやりましょう」って話になったから、「えっ! 本当にいいのね? いいのね? じゃあこれでやるよ?」って。

     

    ——そこからはもう、そのままだったんですね。

     

     うん。怖かったのかなあ(笑)19曲持ってきて、そこから減らす作業をやれる人が事務所の中にいなかったのかもしれない。

     

    ——いや、怖いと思います(笑)。

     

     そうなの。入らなかった曲も、なんで入らなかったかと言われると、わかんないっちゃわかんないし。

     

    ——毒手の歌とかありましたもんね。

     

     毒手の歌とかね〜! 聞きたかったよね、最高にお金かけた回転寿司の歌とかね。でも本当に、毒手の歌と『移動式正月団』は等距離だったんだよね(笑)いや面白い曲だなと思うよ?『移動式正月団』。我ながら面白い曲作ったなと思うけどね。

     

    ——それもじゃあ、今のアウトプットのされ方はやっぱり、ご自身の手元を割と離れた状態。

     

     そう。あんだけのアレンジをされたから、すごく育ったんだとも思うし。アレンジを全然してなくても、アコギで弾いてもまんまだとも思うし。変な感じだね。

     

    ——そうですね。でもその二つが乖離しないのも、アレンジの妙技のような気もします。

     

     そうだね。割と今回は……「そういえば恋愛の歌とか歌ってたけど、恋愛も空想で書いてたし、もう空想で恋愛の歌書くの、飽きたとは言わないけどいっぱい書いちゃった」。「せっかく空想なんだから、もっと幅を広げよう」と。突飛な歌詞と、トラッドなメロディ。


     5年前に、弾けないのにピアノを買って。俺、中高のときにトム・ウェイツがすごく好きで、トム・ウェイツみたいなのができたらかっこいいなと思ったの。ピアノの弾き語り、1st〜2ndあたりのトム・ウェイツのあの感じ格好いいな、と思ってたけども、元々ブルースが好きで、ブルースみたいなのを日本語でやろうと思っても、ブルースに全然日本語つけられなくて。なんか日本語でやるとうまくいかないなと思ったみたいに、トラッドな楽曲にもトラッドな詞を全然つけられない。じゃあ、トラッドなメロディと、ヘンテコな詞。俺の今のモードはそれかもって思って。で、『ポラロイド爺さん』も書いたのかなあ。だから、あれ俺の中ではね、ちょっとトム・ウェイツなの。

     

    ——へえー! そういう導線というか道筋で。

     

     そうなの。

     

    ——各曲のお話は後ほどまた個別に伺っていきたいんですが、まずこのアルバムタイトル『えくぼヶ原飄夢譚』について。最初のころ、結構タイトル決めに苦戦されてた印象がありました。

     

     そう。『5分ドッグ』だけは入れるだろうなと思ったんで、『5分ドッグ』ってタイトルでもいいなと思ってたんだけど、いろんな曲が入ってきて……。ほぼ最後に『えくぼヶ原』を書いて、「あ、そっか。こういう本当とか嘘とかがいっぱい混ざって、本当も嘘もないみたいな、ちっちゃい街みたいな歌ができてしまったから、この中に全部閉じ込める……そういうのもいいか」って思って。


    『えくぼヶ原奇譚』とか最初は考えたんじゃなかったかな。『おろしや国酔夢譚』っていう映画、もっと言うと小説が昔あったんだけど、ロシアに漂流しちゃった日本人の大黒屋光太夫っていう人の話で、西田敏行とかが出演した映画。「あっ、『酔夢譚』いいな……でも『酔夢譚』だとあれだな、他にないかな」と思って、いろいろ調べたけど自分ではピンとこなかったから、「飄夢譚」って勝手に自分で言葉を作って。

     

    ——造語ですもんね。

     

     そう。なんかすごくコンセプチュアルなアルバムっぽく見えるけど、「まあいいか、そういう格好のつけ方もありかな」と思って。


     ほとんど全曲を同時進行で作業してもらってる中で、アレンジャーが体を壊したりしたこともあって、途中で、しかも結構大物(の楽曲)が残っている状態で他の人にお願いしなきゃいけなくなって。『ポラロイド爺さん』、『えくぼヶ原』、『Shake』の3曲……アルバムにおいてめちゃくちゃ大事な場所の曲を、小幡さん(小幡康裕。コアラモード.)にお願いして。『ガキパラ(ガキパラ ~NEXT STAGE~/文化放送)』でなぜか武田真治さんにすごく好かれて、何かある度に呼ばれて行くと共演者のコアラモード.がいて。一回だけ番組の収録のあと……俺が作詞をした回だったかな。みんなでやるはずだったけど俺が半分くらい書いて、「鷲崎さん作詞めちゃめちゃいいですね」みたいな話になって、稔さんと俺とコアラモード.の二人で「ちょっとお茶飲もうか」みたいな感じになって。「実はこういうプロジェクトがあって、今アルバムを作ってるんですよ」、「すごいですね」なんて話になって、ダメ元で小幡さんにお願いしてみたら、OKしてくれて。どんな感じに仕上がるかもわかんなかったけど……め〜ちゃくちゃいい。ちゃんと押さえどころの利いたアレンジをしてくれている。


     で、『虹虫』、『ロックロール・マーメイド』がmanzoさん、『移動式正月団』が佐藤さん(佐藤純一。fhána)。結構重ためというか、厄介めな曲を後半に残してたのを、まあいろいろあったが故になんだけども、いろんな人にお願いすることになって、これが逆にアルバムをカラフルにしたのかもしれない。

     

    ——不幸中の、といったらあれですが。

     

     そうだね。

     

    好事家たちが集まって、とにかく楽しんで作ってくれた

     

    ——そこから制作の具体的な作業が始まって。本格的にはいつごろからだったんでしょう?

     

     いつごろからだったっけ。一回、お願いするはずのアレンジャーを、最初に予定してた人から変えて、輝くん(大原大輝)にお願いすることになって。でもそこからが長かったんだよね。もちろん、みんな他の仕事もしながらだっただろうし。で、俺はこんなだから、自分の曲できちゃったら俺の作業は……おしまいではないけど。

     

    ——アレンジャー、制作陣が咀嚼するまでの時間も結構必要だったんですね。収録現場には、鷲崎さんもほとんど立ち会われていたと。

     

     もちろんもちろん。だって楽しいもの。しかも一等地のいいとこのスタジオで、天井も広くて。アレンジャーには6割ぐらい作ってもらった状態で、それを現場で……太鼓と竿2本、一斉に集まって、ああでもないこうでもない。「あっ、太鼓そっち行くんだったらじゃあベースこうしようかな」、「ごめんなさい、ちょっとベース、竿自体変えてみますね」、「ギター、そこもっと〇〇っぽくできる?」とか。

     

    ——その場でできちゃうんですもんね。

     

     そう。「これやっぱり2本重ねる?」とか「ベーシックでギターこういうの弾いといて、じゃあこれアコギにしましょうか」とか。もうやっぱり各楽器陣が、予算もある、時間もある、一日スタジオに入れます、他の楽器陣もいますっていう中で、みんなで「こんなのはどうだろう」ってアイデア出して楽しんでくれてる。とにかく関わってくれたメインのプレイヤーみんな「楽しい〜!」って言いながらやってくれて。

     

    ——わあ、いいですね。それが一番いいですよね。

     

     当たり前だけどドプロの集まりで、しかもアニソン畑の人とかも多かったし。ギターのコーキくん(松本コーキ)もベースのTABOKUNも、いろんなのやってるけども、割とキメキメの決めが多い楽曲をいっぱいやってる中で……TABOKUNだったかな、「こんなシャッフルの曲いっぱい弾くレコーディング久々です」って。リテイクも「もう一回弾きまーす!」みたいな感じで、やたら楽しそうに弾いてくれてた。

     

    ——前もお伝えしましたが、最初にアルバムを聞いたときにボロボロ泣いたんです。なぜかっていうと、歌詞とか中身とかも理由としてゼロではないと思うんですが、そういう制作陣の熱量がちゃんとパッケージされてるから、それがズシンときて泣いたんだと思うんです。

     

     嬉しい。ミュージシャンがミュージシャンしてるアルバムというかね。

     

    ——めちゃくちゃ感じました。

     

     なんか本当にいいアルバムだなと。その点で、だから俺も何回も聞いてても、まだ比較的(笑)飽きてないんだと思う。『猫のように』なんてほとんどなんにも決めず、尺と、「ここで間奏」とかだけ決めて、一から全部せーので。俺も「ボーカルブース入って一緒に歌います!」って言って歌って。もちろん本歌は別で録ったけどね。

     

    ——「そのテイクでのグルーヴ」ってありますもんね。

     

     そうそう! やっぱり楽器の人はみんな、「歌がある」っていう(だけで変わる部分がある)。今まではラフィンが仮でアレンジを組んで、本歌入れてから楽器を入れる、っていう順番でやってたの。本歌のリズム、グルーヴ、熱量によって、「これがあるからこう弾こう」みたいなのがあって、それもすごくよかったんだけど。何曲かは一緒に歌ったかな?

     

    ——仮歌から本番テイクになる中で変わっていく部分とかもありましたか?

     

     そこはあんまり意識しなかったと思うな。でもね、1番からパートごとに順録りで録っていくじゃない。で、「ここはこういうニュアンスでこういうふうに歌おう」ってちょっとずつ作っていって。でも最後の最後のパートまで揃ったときに、「ごめん! 踏まえた上で、一からツルッともう一回歌っていい?」って言って、結局その最後のがOKテイクになる、みたいなことが往々にしてあった。

     

    ——『ポラロイド爺さん』とかそうでしたよね。

     

     そうだね。あとはなんだろうなあ……結構そういうのが多かったよ、いくつかあった。『おかえり太陽』は一発だったか……でもそういう感じで録ったね。だからスタジオの中で、ちょっとテクニカルというか、「こういう歌い方しよう」ってやった曲も、最終的にはすごくナチュラルな歌い方にしちゃった曲のほうが多いかも。『スプリンター』、『ママはバンクシー』、『釣りメカ日誌』あたりってちょっと、歌い方に変な癖があって。でもこれはね、なんとなくそうなっちゃったんだよね。

     

    ——前に「『釣りメカ』って何か歌い方に元ネタがあるんですか?」って尋ねた気がします。でもそんなこともないんですよね。

     

     何かはあるんだろうけど、でも理由がない(笑)。

     

    ——そう歌っただけ(笑)。

     

     なんかそんな歌い方してみようかなって思っただけなんだと思う。その歌い方である理由は特にないんだけど、ディランみたいなね。でもディランでもないんだよ……俺ディランほとんど聞いてないから。『ロックンロール・マーメイド』のほうが本当はボブ・ディラン。あの譜の置き方というか、語尾を変えたらもう完全にディランの、あの「言いたいことが譜割りから溢れちゃってる」感じ。


     俺、ディランって実は1枚しか持ってなくて。85年の、弾き語りのライブ盤だけ。あとはザ・バンドと一緒にやった『Before the Flood(偉大なる復活)』ぐらいで……でもそれは割と好きだったんだよね。『Tangled Up In Blue(ブルーにこんがらがって)』っていう曲があって……多分それだなあ(笑)『ロックンロール・マーメイド』の一番元にあるの。似てるかも、聞き直したら。恥ずかしい(笑)。

     

    ——でもそういうのをじゃあ、ラフィンさんが拾い上げて、「これはこうですよね」っていうボーカルディレクションをしてくれた?

     

     どうなんだろうね。でもラフィンは本当に歌をちゃんと聞いてくれる人で。試したものは気づいてくれるし、気持ちが入ってる・入ってないもわかってくれるから、そこらへんは信用だったね。


     やっぱりお仕事だったらこんなふうにならなかったと思う。わかんないけどね、俺は本当にこういうふうにしか音楽に関わってないから。うちの事務所はたまたま音楽好きの社長がいて、「鷲崎さん、そんな曲あるんだったらアルバム作りますか」って言ってくれたところが一番最初、1st(『Silly Walker』)出したときね。まさか自分でアルバムを作るなんて、最初は思ってなかったし。ポアロやってたから、ソロがあるなんて思ってなかったんだけど、音楽好きの社員がいたからたまたまそうなって、その延長線上に今もあって。だからお仕事だったらこんな贅沢なスタジオの使い方もできないし、もっとちゃんとお仕事然として、ある程度セールスも考えたことしかできないと思うんだけども。割と……趣味という言い方で合ってるかどうかわかんないけど、好事家が集まってひとつのものを作った感はある。

     

    ——さっきの、プレイヤー陣の楽しそうな感じとかも。

     

     そうだね。とにかく本当にみんな楽しそうで、それが嬉しくて。

     

     

    全曲レビュー [Disc1]

     

    ■Talk to me baby & 5分ドッグ

     

    ——まず1曲目が『Talk to me baby』というのが、すごく意外ではあったんですが、でも他で考えにくいような気もしました。

     

     8年くらい曲書いてなくて、リハビリでとにかく作ってみようってなったときに、最初に書いた曲をいつも『5分ドッグ』って言ってるけど、実は「『Talk to me baby』と『5分ドッグ』」なの。何かとにかく書く練習をしなきゃなと思って書いたから……自分の曲に対してなんなんだけど、ケガしないように書いてる。筋肉とか筋とか痛めないような投げ方してる感じもするの。


     で、ふわっとしてんだね。でもこのふわっとがリハビリの1曲目だったからこそ、ひょっとしたら全体的にこういうことになったのかもしれなくて。1曲目がもっと身近な、ありふれた日常のラブソングみたいなやつだったら……(それ以降も)そういう曲を書いていたかもしれない。
    「昔話の王様と猫みたいに / 優雅にあくびして」っていう歌詞があるけど……そんな昔話、ないんだよね(笑)。

     

    ——おお……! 騙されてる!

     

     そんな昔話、少なくとも俺は知らないの。

     

    ——あると思ってました。

     

     何かあるような気がするでしょ? この2行を書いたとき、「あっ、なんか脳みそが騙されてる感じで面白いな」と思った(笑)。だからこの2行、割とヒントだったかもしれなくて。

     

    ——こんなところに隠れていたとは。

     

     そうなの。1番書いちゃって、2番どうしようかなあ、2番で書くことないなあ……でも岡村ちゃんでも頑張って2番書いてるしなと思って(笑)。

     

    ——そうですね(笑)。

     

     あんなに1番書いたら歌詞に飽きちゃうような人が(笑)。「あともう15分で この街とお別れしなくちゃ」の部分が要るな、と思って。何か2Aが要るよなあと思って書いたのが、この2行だったのね。「あれ? なんか……そんなのないけど、ありそうで、普遍みたいで普遍じゃなくて面白いな」と思ったのと、それと『5分ドッグ』をおそらく同時に作ってて。


     実は、「1日に5分間くらいだけ 犬に変わるんだ / いつなるかわからんけど 突然変わるんだ」まで別のメロで……『Get Back(ザ・ビートルズ)』のメロで、昔作ってたの。でもうまくできなくて置いてたんだよね。それをもう一回持ってきて、ラテンにしてみたんだよ。

     

    ——じゃあ、「王様と猫」が促進剤になって。

     

     なったのかもしれない。……あ、唯一の猫だね。ほとんど犬なのに、このアルバム(笑)。

     

    ——確かに(笑)比喩じゃない猫が。

     

     うん(笑)。もっと言うと、『オー・シャンゼリゼ(意訳カバー)』を書いたときに、3番で「♪猫の言葉を話す少女が 子猫に聖書を教えてる 本屋の棚に住みつく小人が 挿絵にいたずらをしている」って書いたんだけど、これがすごく楽しくて、そんな曲を書きたいなと思ってたの。ああいう空想……谷山浩子めいた(笑)どこからが現実でどこからが非現実で、それは見る角度みたいなやつで変わる……のかなあ。俺には見えてて彼女には見えてない、彼女には見えてて俺には見えてない、みたいなものが交差した中でこの世界ができあがってて。「そういう曲も書けんのかなあ」って『シャンゼリゼ』のときに思ってた。それが実は一番最初にあっての、『Talk to me baby』からの『5分ドッグ』だね。

     

    ——じゃあもうなんというか、フェードイン的にそういうモードに入っていってたんですね。

     

    『シャンゼリゼ』の許諾をずーっと取ろうとしてて、許諾が取れたら絶対入れたんだけど、取れなかったんだよね。取れてたらきっと、『えくぼヶ原』も書いてなくて。「『オー・シャンゼリゼ』のシャンゼリゼ通りみたいな、夢と現実が交差するようなところにこの物語がある」ってアルバムに多分したんだと思う。だけど許諾が通らなかったから、『えくぼヶ原』をきっと作ったんじゃないかなあ……と今、無理やり筋立てて話すとそんな感じ。

     

    ——確かに、ひとつの街を俯瞰する感じは共通点としてありますね。

     

     そうだね。でも今言ってて思い出したけど、「♪現と夢の下〜」も、同じようなメッセージだね(『鷲崎健のヨルナイト×ヨルナイト』テーマソング『ヨナヨナ 〜Yoke of Nights〜』)。モチーフがもう9年前からあったのかしら。

     

    ——確かに! ちょっとマーブルな感じというか。

     

     うん。あれを書いてからしばらく曲を書かなくなるから、旧室の最後にあれを置いていってたんだね。

     

    ——かねてから「あたかもあったかも」を歌っていたじゃないですか(2ndアルバム『SINGER SONG LIAR』収録曲『Singer Song Liar』より)。その精神と同じ線の上にあるような気はしていたんですけど。

     

     最初から言ってたけど、「ラブソングは書いてるけど、架空のラブソングしか書いてない」。というかみんなそうなんだと思ってたんだけど、そんなことないのかね。「経験したことしか書けない」っていう人が割と多くてびっくりするんだけど。

     

    ——みんなみんなではないと思いますが……架空度合いの違いなんじゃないでしょうか。

     

     そうだよね。で、俺は「上手な嘘をつけるライター」だったのが、「本当みたいな嘘を書く人」になろうと思ったのかな。

     

    ——まさにどっちがどっちかわかんない。

     

     自分でも上手なのはわかったから(笑)もっとヘンテコで、でもそこに「本当かも」と思うようなものを作りたいと思ったのかも。もちろん『冗談で死んだ〜』みたいなやつも今まであったけど。

     

    ——ただヘンテコなだけじゃなくて、愛らしいと思えるんですよね。収録曲全体的にですが、「その世界あるある」というか。その世界ではすべてが日常茶飯事だから、登場人物たちはみんな大真面目で、普通の顔でそれをやっている。そこが愛らしさのゆえんなのかなと。

     

     そうだよね。「一日に5分だけ犬になる、というモチーフで皆さん曲を書いてください」って言ったらどうなるのか、みんなに聞いてみたいもんね(笑)。「変身譚」みたいなものになるかもしれない、青山吉能のアルバムにもそういうのがあったけど。「ヴァンパイア譚」になるかもしれないよね、書く人によっては。でも『5分ドッグ』は、書いたときにガッツポーズが出た気がする。

     

    ——その人の中に眠ってる属性によって変わるような。でも「犬」であるということはすごく鷲崎さんの属性だなって思います。

     

     なんか、そうなんだね(笑)『5分キャット』じゃないもんね。どっかでも言ったけど、細野さんの「♪北京ダック」と「♪5分ドッグ」は、かかってるの(笑)それもあったのかな。『北京ダック』聞いて、「♪北京ダック、♪5分ドッグ……似てるなあ。あ、俺『5分ドッグ』って昔書いたなあ」。で、じゃあラテンにしようって思ったのかもしれないな。

     

    ——『アコギFUN!』で披露されたとき、リズム楽器で遊んでた印象があります。

     

     そうだね。音源にしていく時点で、ラテンであるということはもう稔さんが完全にわかっていたんだけど、アレンジャーはラテンを知らない人でね(笑)。まあそりゃ現代音楽のアレンジをしてる人にラテンをやれっていうのが酷なんだけど、ずいぶん勉強してくれたっぽい。

     

    ——基本的に『アコギFUN!』でも稔さんがそばで一緒にやってるから、自動的にじゃないですけど、フィルターになってくれて。

     

     そうだね、うんうん。

     

    ——『5分ドッグ』って、『5分ドッグ』以降の曲たちに影響を及ぼしたと思いますか?

     

     ああ〜。そうだね、あるかもね。最初に『Get Back』で書いてるときの『5分ドッグ』って、それでもラブソングにしたんだよ。「5分だけ俺は犬になって、でもそんな俺をわかってくれる人がいて」みたいなサビだったの。それを解体して新しく書き直したら、もうラブソングじゃなくなっていて。「あ、ラブソングじゃなくても書けるな」って、ここで思った気がする。この収録順になったのはたまたまなんだけど、『Talk to me baby』、『5分ドッグ』の順番で作ったのは確かなんだよね。この2曲は割と指針になった可能性はあるかも。

     

    ——なるほど。影響というよりも指針ですね。

     

     なんせそういうラブソングをいっぱい書いてきたから、「そうじゃないものを書くのが楽しい」だったんだと思う。

     

     曲を書く人ならわかると思うけど、ラブソングってさ、とにかくキュッてまとまるんだよね。ラブソングにした瞬間に、道筋もメッセージもまとめてくれるから、使い勝手がいいというか。「なんでラブソングを書くんですか?」って阿澄(阿澄佳奈)に言われて、「そのほうが書きやすいからだね」って昔答えたことがあるんだけど。『バラバラ(バラバラ〜Balance 2 Variance〜)』聞いて、「鷲崎さんあんな恋愛してるんだ、キャーッ鷲崎さんったら」と思ったんだって(笑)いやいやいや、全部架空だって言ってんじゃん最初から(笑)。


     呪縛ではないけど、やっぱりそうやって書くことのラクさをわかってたから、思いついたアイデアをラブソングの箱に入れちゃって書く、ということが割とあった。そうじゃなくてもいいな、そうじゃなくでも書けそうだ、というのが発見だったのかも。少しだけ自分の世界を広げたかもね、別に今までもラブソング以外も書いてるけど。

     

    ——『5分ドッグ』なんてみんなが続きを書いてくれちゃえばいい、と以前おっしゃってました。その中で、たとえば彼の恋愛を歌ってくれてもいいわけですもんね。

     

     もちろん! 全然いい。聞いてみたいもん。本当に書けばいい(笑)マジで思ってるんだよね。世に出てないけど、これの替え歌がもうあるしね。冗談で書いた歌詞があったから、「ラフィンごめん、10分だけ録っていい?」って言って録ったの。

     

    ——録ったんですね(笑)。

     

     だからどっかに存在するんだよね。

     

    ——日の目を見るかはわからないけれど。

     

    「♪我々は5分間だけ 犬になっちゃう芸人です……タタタ、タタタ、アメトーーーク」みたいなやつ(笑)。

     

    ——ははは(笑)本当に替え歌ですね。

     

     そう(笑)本当になんでもないやつ。

     

    ■沢村ガール 〜俺が私で私が俺で〜

     

    ——『アコギFUN!』で新曲をどんどんやっていく中で、「稔さんを笑わせるために書く」というのも大きくあったじゃないですか。それってそこから先の話でしたっけ……?

     

     最初から!(笑)だってそれ以外に何もないもんね。「鷲崎、書いてみたら?」ってbambooから言われた時点から。


     最初はカバーアルバムを出す予定だったのがうまくいかなくて。「いや、鷲崎の書いた曲が聞きたいんだと思うよ、書いてみたら?」って言われてる時点では、しばらくずーっと俺はリハビリだった。いつまでリハビリだったかって言われると俺にはわかんない。とにかくリハビリのために書いてるだけだったから、最後まで病状日誌の可能性がある(笑)このアルバムに入ってる曲は。

     

    ——そんな取っ掛かりでやっていく中で、発見や気づきみたいなものがあった……という順番。

     

     そうね。とにかくリハビリだからなんでもよかったの。何書いても医者は褒めるし、「偉いですね」って言ってくれるから、きっと完成度みたいなやつはあんまり気にしてなかったんだよね。

     

    ——ただ、稔さんへの響き具合という観点では、『沢村ガール』は特に。

     

    『沢村ガール』はもう本当に。これも割と早めに書いたんだっけね。なんで書いたんだろう(笑)これ。

     

    ——2021年のうちに書かれてます。

     

    『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』っていう番組が昔ありまして。失恋した女の人をいっぱい集めて、傷心バス旅行みたいなのをやる企画があったの。今だったら絶対ダメなんだけども、思い出の品を川に投げ捨てるっていう企画。そこで泣きながら女の人が投げたときに、たけしさんが「いい肩してんな」って言ったことがあったの。……それがモチーフ!(笑)

     

    ——ははは(笑)結構具体的ですね。そうだったんだ。

     

     それをなぜか覚えてて、「そのまま野球選手になるっていうのも面白いなあ」。

     

    ——見事に料理されましたね(笑)。

     

     見事に料理したもんですよ。だって全く野球わかんないもんね。野球漫画すら読んでないから、沖縄キャンプとビールかけしか出てこない。野球は好き?

     

    ——あんまりわからないですね。

     

     野球好きはどう聞くんだろうか。だって、広く訴えるポップスだと思ってたら「令和の沢村」って書かないんだよ俺は(笑)意味わかんないもん。で、『沢村ガール』ってタイトルでもないよ、絶対に。描かれてるものはラブコメとして面白いのに、出口、入口が狭い。多分それは、稔さんを笑わせるためだけに作って、すぐ次の曲やりたかったからだと思うの。そしたらまさかね、泣いたっていう人いっぱいいたもん。

     

    ——そうなんです。この曲で泣いたんです。

     

     あ、泣いた?(笑)

     

    ——はい(笑)この曲が決壊ポイントだったんです。

     

     ははは(笑)変なの。泣ける? 泣けるか。

     

    ——花守ゆみりさんの一番最後のセリフから、ラスサビに移るところで。そこもやっぱり、決めのすごく気持ちいいポイントじゃないですか。さっき言った楽器陣のボルテージみたいなものも大きかったと思いますし、花守さんというプロの技も相まってだと思います。

     

     そうだね、ドラマチックになったね。

     

    ——花守さんが大変楽しそうに演じられてたっていうお話は以前お聞きしましたが。

     

     めちゃくちゃ。もう来たときから「本当にありがとうございます!」、「私、この子ってこういう子だと思うんですけど……」みたいな感じで。

     

    ——役作りというか。

     

     うん。ほとんど仕事で会ったことなくて、2回ぐらいご挨拶した程度。でも、なんとなく頭に思い浮かんじゃったもんだから、「ねえ、どう思う?」ホッタくんに。「いや、悪くないと思いますけど、なんでですか?」、「なんでって言われても、なんかいいんじゃないかなって思いついちゃったんだよね」って。鷲崎の知り合いとかっていう意味で、「鷲崎さんのアルバムにこの人が参加してるんだ!」っていうキャッチーでコマーシャルな人選はもっといっぱいあったと思うんだけど、なんでかゆみりちゃんを思いついちゃったんだよね。

     

    ——何かリファレンスがあったわけでもなく。

     

     なく。

     

    ——でも、結果ドハマりなさってる。

     

     よかったよね、俺もそう思う。だからこそいろんな人のいろんな語りを聞いてみたいなと思って、歌詞朗読の企画(クラウドファンディングのストレッチゴール「えくぼヶ原飄夢譚朗読音源」)っていうのを進めてるんだけど。せっかく声優さんとこんな近くにいるのに、声優さんがそういうふうにアプローチするところとかあんまり見てこなかったから、俺自身のアルバムでそんなふうに参加してくれるなんてって思って。とにかくめちゃくちゃよかったの。

     

    ——(セリフも)元々は鷲崎さんがご自分で歌われてたパートですもんね。

     

     そうそう。で、もう完全にあんなの虹コン(虹のコンキスタドール)じゃん(笑)。それも含めてただただ稔さんを笑わせよう、だったんだよね。

     

    ——鷲崎さんはでも……本当にその、女方がお上手ですよね。

     

     はははは(笑)そうだね、久々にやったんだけど。

     

    ——音源の中でもその香りが残ってるじゃないですか、「いいのかな」のところとか。そこもすごく好きなポイントです。

     

     可愛いよね(笑)。『俺が私で私が俺で』……うん、いいタイトル。

     

    ——アニメとかドラマじゃなくて、漫画だなって思いました。

     

     そうだね。でも、今見てもやっぱり、推敲してない感じがするもの(笑)。

     

    ——そうですか?

     

     「女房役と言われるたびに / 俺の私が嬉し悲しで グルグル 回るの」あたり(笑)これはこれはだね。

     

    ——でもやっぱり基本的に口が楽しい詞ですよね。

     

     うん。そうだね。誰か早くカバーしないかな、高校生がやらないかな、学祭で。

     

    ——ああ、いいですね。

     

     でも難しいからなあこの曲、コードも変だし。誰もまだコード取ってる人見てないもんね。(弾き語りながらコードを確かめる)……変なメロ(笑)ははは。

     

    ——ちょっと簡単コードバージョンで高校生には、やっていただいて。

     

     そうだね(笑)それもこっちで取っとこう。

     

    (つづく)

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