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    【無料全文公開】夢とうつつが交差する、見えない街への案内図。鷲崎健 5thアルバム『えくぼヶ原飄夢譚』全曲インタビュー②(永井慎之介)

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    2025/09/02 19:00

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    前回のインタビューはこちら

     

    ■俺を歌にしちゃうのはいつだって君


    ——その次が、『俺を歌にしちゃうのはいつだって君』。『Talk to me baby』が比較的初々しい感じなのに対して、こちらはゾッコンですもんね。

     

     そうだね。これもなんだかんだ……もちろん行ったり来たりはしてるけど、結構作った順に近いかな。

     

    ——そうですね、『沢村ガール』の前の回でこの曲が披露されてます。

     

    「そろそろかな?」って思ったんだと思う(笑)。自分の中の変なアレなんだけど、「あー、真面目な曲を一曲作ったら、ふざけた曲作れるや」とか、「ふざけた曲を一曲作ったら真面目な曲作れるや」っていうのが自分の中であるの。全部真面目、全部ふざけじゃなく、てれこで作ってた。一作ずつ順番に監督変えてる感じ。「それじゃこういうのも作んなきゃか」みたいな感じで書いたんだよね。

     

    ——結構じゃあ、心持ち的にも真面目にというか。

     

     そうそうそう。でもやっぱり「♪Baby 俺を歌にしちゃうのはいつだって君」そのサビ以外の、なんだろう、メルヘンでもなく……「愛をポッケに入れたまま / 洗濯機に入れちゃったようです」みたいなのは、前だったらやっぱり書かなかったような言葉。


     これを不親切と言うなら不親切。あまりその情景とか二人の姿が浮かぶかといえば、そこは割と厳しく手を離してしまっている。「それはもう君が感じたのが正解だから、こっちからはヒントはあげないですよ」っていう。「リアルな物事の説明はなくて、何を言ってるかはよくわからないけど、何かすごく愛が溢れているんだな」、が伝わるものにしたいなと……思ったのかな? まあでもここまで来たから、「そういうふうに書きたい」っていうモードになったのかも。「君がこう言って俺がこう言ったよね」っていうリアルな地平とあまり無理にコミットしないところで書きたかったのかも。


     訳詞してるときにちょっと、こういう浮遊感のある、地上からちょっと浮いてる感じの歌が何曲かあったの。その感じを意識したわけじゃないけど、それを通過したから、これを書けたのかもね。……ってこれは稔さんが言ってたんだよ。「訳詞の鷲崎さんがいたから、これが書けたのかもしれないですね」。その瞬間に掴んだ言葉だけで書いてるから、わかんないけど。

     

    ——はっきりとしたことは何も言ってないですね。

     

     だから俺もわかんない(笑)。

     

    ——(笑)そのときの鷲崎さんにしか。

     

     そう、次の日に書いてたらこうはなってなくて。その瞬間、俺が熱いと思った言葉と、それから思いついた物語というか、次の言葉みたいなもの。なんだ「凸凹マーチ」って(笑)全くわかんない。

     

    ——凸凹なまましばらく歩いてますもんね。

     

     そうだね。そしてそれが何なのかもよくわかんない。……あ! でもこれ、あれだ。すごく好きなミュージシャンがいて、その人の曲に無理やり、勝手に日本語詞つけてたの。その曲の許諾も取れなかったから、それをそのままこっちに回しちゃったのかもしれないな。

     

    ——「俺を歌にしちゃう」って、何かはわからないけど、多分すごく大きい愛なんだろうなって。

     

     そうだね。それがどういうことかは、わかんないけどね。「何度でも 二人 出会ってしまうよ」ってどういうことか。

     

    ——めちゃくちゃ愛し、あるいは愛されている、ということだけはわかります。一時期、アルバムタイトルの候補にもされていましたよね。

     

     それぐらい強い言葉だなと思ってた。悪くないと今でも思うし。でもまあ『えくぼヶ原』にしちゃったから、もう今さすがにこのアルバムで『俺を歌にしちゃうのはいつだって君』はちょっとロマンチックすぎるし、アルバムの意味合いも変わってくるなと思う。「♪Baby 俺を歌にしちゃうのはいつだって君」。これ実は譜割りから外れてないんだよね。飛び出してないんだよ、本当はね。

     

    ——『アコギFUN!』のとき、ここだけ3連符的なギターストロークでしたもんね。

     

     そうそう、さすがだねえ(笑)。

     

    ——何度も聞いてますから(笑)。

     

     こっちは一回しか歌わないから、みんなも一回しか聞かないと思うじゃない(笑)。初披露の音源みんな聴いてるんでしょ? 俺聞いてないもの。恥ずかしくて聞きたくないから(笑)。

     

    ——アマチュアバンドマンの感覚だと、この曲と『Talk to me baby』、もしどっちも自分の持ち歌にあったとしたら、アレンジの差別化にすごく悩みそうだなと思ったんです。

     

     なるほどね。割とどっちもソウルか。でも『俺を歌にしちゃうのはいつだって君』は「もう突っ込んで突っ込んで、ソウルソウルでいいよ」っていう話をしてて。欲を言うと、もっと真っ黒にしたかったくらい。『Talk to me baby』はもうちょっと、シティポップみが少しあるというか。

     

    ——ああ、ちょっとソフトな。

     

     そう、ソフトソウル感があって。歌の熱量が全然違う曲なんで。『俺を歌にしちゃうのはいつだって君』はコードもやっぱり強いもんね。『Talk to me baby』のほうが……なんだろうね、狂ってない。

     

    ——伴奏然としているというか。

     

     そうだね。このコード進行の中で歌われる人は、そこまでクレイジーになれない。『俺を歌にしちゃうのはいつだって君』は、どっかで解決してないじゃない、コードがさ。サブドミナントから始まって、どこまでもピリオドが打てないというか。この人にはそのちょっと狂おしい思いと、ぐるぐる回る何か解決していかない感情みたいなものがあるんだと思う。

     

    ——フェードアウトで終わるというのもそうですか?

     

     フェードアウトでしか終われなかったのかもな。俺が指定したわけじゃないけど、でもそうだろうなと思ってたかも。でも俺が思ったみたいに、演奏陣もアレンジャーもそう思ってたんだと思う。この曲は割と、空を飛んで、地上にストンと降りる瞬間のあまりない曲。メロディーも、歌詞も。「Baby」って叫んでから、この叫びに終結点がないというか。だからフェードアウトにしたんじゃないかな。

     

    ——そう聞くと、歌メロが終わったあともずっとコーラスだけが残り続けてることにも、何か意味を感じられますね。

     

     コーラス、大変そうだったもんなあ。

     

    ——すごくいいコーラスですよね。はめ方がすごく気持ちよくて。

     

     ね! そうなんだよ。「もっとコーラス上げたい!」ってなっちゃうんだよね、聞くと。でもさすがにね。

     

    ——コーラスのトラックだけ抜き出して貰いたいぐらい(笑)。

     

    (笑)そうだよね。しかもそんなにパワーコーラスな人、亜咲花ちゃんしかいないんだよ、正直言うと。みんなそんなに、ガンってくるような人じゃないんだよね。Suaraとか、あんにゅちゃんとか。

     

    ——そのあたりはやっぱりご自身でバランス取られてたんですかね。

     

     いや(笑)もうできることをやるって感じだったね。

     

     ■おかえり太陽

     

    ——私は虹コンにコミットしていない人間で、かつ「そういう由来の曲なんだ」ということは知って聞いていたので、正直この曲が自分のものになるまで少し時間がかかったんです。でも、雨雲があって、その上に太陽があって。雨雲が何をしていても太陽はずっと太陽のままである、というのが、讃歌としてこれ以上ない表現だってことに気づいてから、私は好きになりました。

     

    「♪唇ツンと尖らせて(『君は天然色』)」……あれって松本隆さんが妹さんを亡くしたことから書かれた曲なんだけど、「でもそんな情報、知らなきゃよかった」とかさ。『デイ・ドリーム・ビリーバー』は実はお母さんの歌なんだよ、とかさ。もちろん裏話としてはあるかもしれないし、俺が現場で言っちゃったからなんだけど、まあもっと普遍の歌で聞いてほしいし、せっかくできたからね。


     これだけボーカルマイクが違ったんだよな。「ボーカルがアンサンブルの中にいるというよりは、一番真ん中でドカーンってくる曲にしたい」ってラフィンが言って、変えたんだよね。


     2番で歌詞を変えることも可能だったけど……初出時は可能じゃなかったな、時間がなかったからね。なんせ電車の中で書いてきちゃったから。

     

    ——同じ歌詞を2回歌う、歌詞を変えないまま行こう、としたのは鷲崎さんですか?

     

     そう。変えないほうがむしろいいんじゃないかと。「じゃあ1番におけるこことここは穴埋めにして、違う言葉入れて、成立感があるようにしよう」っていうのはきっとテクニックでできちゃうんだけど、それがあんまり意味を持たないかもなあ、と思った。実際に歌詞カードを見て初めて「あ、同じ歌詞だったんだ」って気づく人もいるぐらい、1番と2番では景色も変わるというか。


     悲壮感のある1番に対して、あの祝祭感のある2番のオケ。1番は一人で空を見上げてるけど、2番はそれでもみんなでバカ騒ぎをしながら、「元々お祭りとはそうだったんじゃないのか?」って思ったり。みんなで信じる力みたいなのが2番にはあって、それが生きてるような。楽曲を盛り上げるためというよりは、踊るために2番にオケが入った、リズムが入ったって気がしない?


     1番までは誰しもの、一人一人のブルースだったけども、共通のリズム、共通の太鼓が鳴ることで、みんなで手を繋いで踊りながら空を見る、みたいな歌になっている気がする。

     

    ——一人一人の歌だけど、実はシェアできるものなんだ……100%じゃないとしても。

     

     これはできあがったのを聞いた俺の感想で、最初からそうだったわけじゃないかもしれないけど。好きだからただケルトをしたかっただけなんだけど(笑)。

     

    ——同じ歌詞でも、そうやって構成する周りの要素が違うだけで、こんなに伝わり方も変わるという。

     

     だから、よくこの1番と2番のリズムが変わるというギミックを当時アコギでやったなと。しかもちゃんとしてたし。そのリズムの中で、みんなで気持ちを一つにする、みたいなもんだもんね。


    「黄金の穀物の穂に 力 与え給え」、か。ここまでは太陽讃歌だけど、こっから下は世界、というか自分讃歌だもんね。「黄金の穀物の穂」ってきっと自分のことだもんね、きっとっていうのもなんだけども。自分とか世界のことを「黄金の穀物で、穂である」って言ってるんだもんね。

     

    ——「給え」の「た」の覇気がすごく好きです。

     

     そう、力強く歌ったね。「あなたが、我々黄金を照らすのだ。太陽は光り、そして黄金も光るのだ」っていう最後の結びだったんだと思う。

     

    ——今思えば……。

     

     今思えばね!(笑)

     

    ■虹虫

     

    ——一転して、『虹虫』。

     

     これは「自分でも困ったんだよね……」って言いながら歌ったよね。「なんか変な曲書いちゃって」。「俺もこんな曲書いたことないからどうしようと思って……でも歌うね」っつって歌ったんだよね。

     

    ——生まれたことに戸惑ってる感じがありました(笑)。

     

     そうだよね(笑)。だって俺の中でこれ、別に何も思ってないんだもん。というか1A、1B、1Cっていうこの順でしか作ってなくて、「サビからできました」みたいな曲ほとんどなくて。

     

    ——「今のセクションを書いてる途中に次が浮かぶんだ」っていうお話でしたね。

     

     うん。とにかくこの「地中に埋まった虹の 下半分を / 餌にして生きるという不思議な虫がいる」から始まったの(笑)「なんだそりゃ」と思いながら。

     

    ——これが生まれた理由は、ご自身でも見当つかないですか。

     

     モチーフは、あったの。真円の虹って確か存在するんだよね、多分なんらかの気候環境、条件次第で見れるんだよね。そういう曲を本当に15年とか前、大昔に書いてんの。それもあんまりちょっとうまくいかなくて、世に出さなかったんだけど。ピカソみたいなのがモチーフで、「君の見えてない向こう側も全部キュビズムで見えてんだよ俺には」みたいな歌詞の中の一部に「真円の虹」っていうのがあって。それは頭のどこかにあったような気がする……それなのかなあ。


     そっからはもう、ただ書いてるだけだね。授業中暇な生徒みたいな(笑)授業が退屈で書いた2行の続きをただ書いてるだけ。自分の脳内がどんどん遠くにいって。


    ——ただただ観察の歌というか。どこにも取っ手がないのに、でも全然10分ある感じがしない。

     

     これ何がすごいって、1番書いてるときには虹虫がまさか虹だなんて思ってないの俺。「えっえっえっ」って言いながら書いてるの(笑)。サビもどうしようかと思ったもんなあ。「この曲のサビってなんだ?」と思って。

     

    ——サビのメロディーはめちゃくちゃキャッチーですよね。

     

     ね。そこまでがずっと、長いAメロが4回続く。相当鬱屈とした(笑)Aメロの連続なんだけど。


     はっきり言ってこのサビは技術だが……「もらったこの要素だけだとちょっと表に出せないんで、何かポップスのパッケージをしてください」って頼まれたときにすることではあるけど、それにしてもそのパッケージもうまくいって、機能してる感じがするよね。「そっか、虹を待つってことは、雨が降ることを待って、そして雨が止むことも同時に待たなきゃいけないんだ」。まるでメッセージがあるかのよう……でもあるかないかもわかんない。自分に照らし合わせたり、何かの比喩もない歌なんだけど、まるで比喩みたいに自分の心の中に何か意味を持ってしまったりするようなのは、確かにここは少しテクニックだけど。それにしてもうまくいったとは思う。


     で、「一生を土の中で」だよねえ……(笑)。

     

    ——(笑)すごく開放感があったのに。

     

     1番でこんなに書いちゃって、2番どうしよう、「何か流れがないとな」と思ったんだろうね。うーん。なんでこんなになっちゃったかね。

     

    ——今もって謎である……。

     

     今もって謎である(笑)謎であるなあ。

     

    ——謎のままアレンジしたmanzoさん、すごいですね。

     

     すごいよねえ(笑)しかもこの歌詞カードを読んで、泣いた稔さんね。打ち上げで「ちょっと歌詞読ませてください」っつって読んで、泣いたの。泣く部分がどこだったかもわかんないし、そりゃ泣くよと思う部分もあるし。どう思ったか覚えてる? 初めて聞いたときのこと、思い出せる?

     

    ——えー……どう思ったんだろう。でもそんなに咀嚼できてなかったと思います、一聴しただけでは。

     

     びっくりしちゃうよね。

     

    ——ただ、やっぱりサビはすごくフックでした。

     

     うんうん、何かを寄せてしまうよね、この言葉は。「雨を願い 雨が降れば 雨よやめと 繰り返し願う / 雨上がり 束の間の 雲の切間 その刹那に / 虹虫は虹を願う」。

     

    ——うん。ポップス的にはすごく意味のあるように見える歌詞です。土の中にいるけど(笑)っていう。

     

     本当だよね。やっぱり大喜利じゃないけど、土の中に虹虫っていうのがいて、虹なのに地上にいなくて、みたいないくつかの要素……触ったことない素材で料理を作るみたいな感じで、恐る恐る配置しながら味付けしていった。でもまさか虹になるとはなあ……これは驚きだったなあ。

     

    ——歌詞を読んでいても「あれ、もしや……」感がありますもんね。アレンジャーの人選としては、『虹虫』だからmanzoさんに投げてみよう、ということだったんですか?

     

     稔さんが「どうですか」って言ってくれた。「こんな難しい曲をできるのはmanzoさんしかいない」。「何度も仕事したんですけどやっぱ天才ですよ」っていう話を稔さんがしてて、「音楽に関する知識も技術も理解もすごいから、僕はmanzoさんを勧めるんですけど、どうですか?」って言われて。


     お会いする前に、ヨナフェス(『ヨナヨナ・フェス2023~ゲージューはバクハツだ!』)を見に来てくれて、『Catch Cold Christmas(オッド・アイ)』を聞いて泣いたの。「鷲崎さんは本当に何気ない日常を捉えて、それを歌にする天才ですね」って感想をくれたの。そいつが『虹虫』と『ロックンロール・マーメイド』を出すと(笑)。困っただろうねえ、面食らっただろうねえ。そうなの、俺は『Catch Cold Christmas』を書いて『虹虫』を書いた男!

     

    ——(笑)。でも稔さんにとってやっぱり切り札的な人だったんでしょうし、『Catch Cold Christmas』で共鳴・共振する部分があったというのは一個大きかったような。

     

     かもしれないねえ。「だってこのギター1本、歌1本のオケで完成してるもん、どうしていいのかわかんないよ!」って言われたんだって、稔さん。俺はアレンジャーじゃないからわかんないけど、アレンジャーは「え〜」って言いながらも腕が鳴るんだと思うよ。

     

    ——糸口が見えたらすごく楽しそうです。 

     

     

    ■ツイストで踊り明かそう

     

    ——次の曲へ行きましょう。

     

    『ツイスト』なんてもう何も言うことないもんね。昔からやっている。いろんな曲カバー申請したけど、本当に数年前と比べ物にならないぐらい今、海外のカバー申請って通らないの。コロナ禍以降、向こうでいうJASRACみたいなところが機能してなくて、連絡しても返信すらない。もっと大手事務所で、そういう担当がいて、付き合いがあって……だったらわかんないけど、うちみたいなインディーが連絡しても本当に返信すらないんだよ。つまりサム・クックはもう権利が切れてるから使える。じゃあ入れちゃえ(笑)だったの。

     

    ——ライブでもよく聞く曲ではありつつ、日本語としてちゃんと歌詞をはっきり認識というよりは、本当に英語っぽくというか、流すような聞き方を私はしていて。この機会に、初めて原曲の歌詞をちゃんと読んだんですが……。

     

     全然違ったでしょ(笑)はははは。まあ俺は原曲の歌詞すらほぼ読んでない。

     

    ——(笑)。でも原曲に含まれている雰囲気を、鷲崎さんが噛んで飲んで、吐き戻した感じというか。

     

     だってサム・クックの歌の訳詞にサム・クックが出てくるんだよ?(笑)これはもう、ただただ俺がソウルミュージック好きで、サム・クックとかオーティス・レディングが好きで、サザンソウルのビートに合わせて俺が歌ってて何のストレスもない歌詞。歌って楽しくて、みんなも踊り出しそうな歌詞、だね。

     

    ——どこかではっきり歌詞を決めたタイミングってあったんですか? それとも一番最初からずっとこの詞で歌ってこられたんでしょうか。

     

    「サーカスの象使いも〜」は少しあとになってつけたんじゃなかったっけな、ここだけ「そうか、原曲上もう一個足りないわ」と思って。「心臓が暴れ出す〜」は一番最初からこれを歌ってたね。


     柳ジョージ&レイニーウッドのライブ盤に入ってて、俺は小学校か中学校のときにレンタルレコードで借りて聞いて。『テネシー・ワルツ』と『ツイストで踊り明かそう』をやってたの。めっちゃ好きで、「格好いい〜!」と思って、「いつかやりたいなあ俺も、『ツイストで踊り明かそう』を」。実は俺はオーティスが好きでサム・クックはほとんど聞いてなかった。で、オーティスはツイストをやってないんだよね。『Shake』はサム・クックの曲だけど、俺がカバーしてるのはオーティスバージョンなの。でもサム・クックのこの曲だけは本当にいつかやりたいと思っていて、「いつかやりたい曲には日本語詞をつけるべきだ」っていう(笑)使命感があったんだと思う。すごく昔につけたもん。

     

    ——どのくらい前ですか?

     

     自分の中の訳詞ブームで、いろんな曲に訳詞をするよりも前に、「この曲にはつけとこう」みたいな感じでつけたから、相当昔につけてるよ。本当、のびのびしてるもんね。何のてらいもない、「まるで訳詞」っぽくて。

     

    ——濁りがないというか。

     

     そう。で、2番からちょっとフックをつけようと。「エデンのダンスフロア / 林檎酒を飲み干して / 神様も踊り出す」。エデンの園に生えているリンゴをもいでお酒にしちゃって、それを神様が飲んじゃう。知恵や恥、無垢というものを失っても、ロックンロールを手に入れたほうが幸せだろうっていう歌だもんね。


     この曲って、途中に「Lean back」とか「Watusi」とかいろんなダンスの描写が出てきて、それかこの曲のフックなのに、全無視して(笑)原曲のフック全無視でやるっていうね。

     

    ——(笑)。この曲もコーラスがすごく素敵につきましたね。

     

     そうだね、ソウルミュージックはああいうレディースコーラスがあってほしい。……これ一時期あれだね、『アコギFUN!』で「Twistin’ the night away …… Woo 授業をサボッて」で、『トランジスタラジオ(RCサクセション)』になって。

     

    ——ああ!

     

     ラジオから「誰々の歌が聞こえる」みたいになって、その人の曲をやるっていう遊びでよくやってたね、そういえば。「岡村靖幸のナンバー 空にとけてった」みたいなんで、岡村ちゃんの歌やったりとか。そういう遊びの曲だったね。一回、遠藤会の『漢祭り』でもやってるわ。俺のアコギバージョンのやつを流田(流田豊)に渡して、流田Projectに弾いてもらって、「ユニコーンのナンバー 空にとけてった」、そっから『大迷惑』をやって、っていうのをやった。「意外とうちのメンバーはソウルとか好きなんですよ」なんて話をしたのを覚えてる。

     

    ■猫のように

     

    ——そして、『猫のように』。

     

     一番古い曲だね。

     

    ——恥ずかしながら一度も聞いたことがなくて。

     

     だって20年ぐらい前に『アコギな夜』で一回やっただけだもん。佑磨が「好きだ」っていうから入れたんじゃなかったっけな。

     

    ——じゃあ今回、よくここに上がりましたね。そしてこの18曲に自然に仲間入りをしているという

     

     まあこういうマイナー調で、ガシッとロックな曲が他になかったからっていうのもあるんだけど。俺は本当にマイナーの曲が書けないの。メジャーの曲しか書けなくて、自分でもそれがコンプレックスなぐらい。その中で珍しく短調の曲を書いたっていうのがあって。ずいぶん前に書いて放っといたんだけど、「あの曲すごくいいじゃないですか」って言われて、「そう?」なんて言って入れたんだと思う。どう? やっぱり今と違う? そんなに変わんない?

     

    ——変わったかどうかは難しいですけど、こう、糸口の見えない感じというか。ただ吠えることしかできない所在の無さみたいなのは、個人的には『STEP』とかにも少し通じる気がしました。

     

     今なら何かもう一個、サービス部分を作るかなと思うけどね。

     

    ——確かに、表現が合ってるかわからないですけど、素っ気なさみたいなのは感じますね。

     

    「あ、もう終わっちゃうんだ」っていう感じのね。

     

    ——でもそのマイナー感と、楽器隊のプリミティブな感じがすごくマッチしてて。

     

     うん、無骨でね。これで喉一回潰したんだよな、レコーディングでめっちゃ叫んで。

     

    ——すごく辛そうな時期ありましたよね、これだったんですね。

     

     コーラスを録ったんだけど、そっちが高かったんだよね。これはもう自分のレンジの中のギリギリでキー設定してるけど、コーラスの設定なんてこっちはしてないから、アレンジの中で送られてきて。「え、これ俺が歌うの?」みたいな。今回はラフィンがコーラス作ったわけでもないから。でも「そう書いてますよ」って言われて「じゃあ頑張って録るしかないかあ」って言って録ったの。で、本ボーカルに負けない熱量のコーラスでないとダメだからって。

     

    ——そうですね、他の曲だったら違うかもしれないけど。

     

     そうなの。でも可愛いなこの曲。

     

    ——危うくその20年前の一回きりで、二度と聞けなかったかもしれないものを、こういう形で聞けてよかったです。

     

     もっと言うと、これより前に、めっちゃ可愛い女の子の曲を書いてて。「♪女は太陽なのよ 男は狼なのよ 女は太陽だから 男は月に吠えるだけ」ってのがあったんだね。

     

    ——わあ〜。そこからのってことですか。面白い。

     

     かもしれないね。全然違うよね。「空で大きな顔をしてる方には 洗濯物でも見ていてもらいましょう」みたいなやつ。それが最初にあったのかもしれない。

     

    ——すごく可愛らしい曲。

     

     喋ってると思い出すね。そっちのほうがよかったか?(笑)

     

    ■世界の終わりのポラロイド爺さん

     

    ——ディスク1の最後を飾るのはこの曲です。

     

     これも最初はボケで作ったんだもん。「The end」って書いた看板が世界の果てにあったら……って、コント師の人が最初にコントの設定でバーっていっぱい思いつくうちのひとつみたいで。

     

    ——『エンタの神様』とかでやってそうですね(笑)。

     

     やりそうだよねえ、「あっ、顔出しパネルあるじゃないですか」(笑)。なんかそういうのを思いついて、最初ボケのつもりで書き始めてみたら……「♪どうやら顔を入れるみたいだ 世界の終わりの顔出しパネル」。どうしようかなと思ったらもう一人出てきて、「一枚どうですですと誰かの声が……どうにも締まらない世界の終わり」。ここまではまだちょっとコントだもんね。


     この1番を書き終わって「ふう……よし、じゃあ俺はこれを書いたから、次はお前が」っつって2番を書く俺に渡すの。で、2番を書く俺が「えぇー! これでですかー?」って感じで2番を書く。

     

    ——1番が終わって、一度間が空くというか、置くという感じなんですか?

     

     そうだね。別に日にちを空けたわけじゃないけど、そのままのトーンでは書かなかったと思う。一回休憩、みたいな感じで、風呂入ったり散歩したり、なんかあったような気がするね。

     

    ——それは確かに……次の自分がびっくりしますよね(笑)。

     

     ただずいぶん展開してくれて。「一緒に〜!?」なんつって(笑)。本当にみんな、この曲を聞いた人は意味を読み取ろうとするし、何かの比喩だと……別にいいんだよ、思っていいんだけど。俺にはその正解はないし、俺は比喩で書いたわけではなく、浮かんだ物語をただ書いただけだから、無責任っちゃ無責任。しかもこれがね、トム・ウェイツだと。

     

    ——(笑)そうですよね。無責任なのに、でもちゃんと物語になっていて。でも一番読み込んでいたのは稔さんですよね。

     

     稔さんはもう……(笑)ずっと語ってたね。だってレコーディングする前に自分の見解を一回述べてからやったもん。「僕はこうだと思ってるんです」。

     

    ——クラファンで流れてきたレポート動画の中で最も長い動画でした。

     

     はははは(笑)。「なぜ『愛想笑いで近づいてくる』のか」みたいなね(笑)。

     

    ——でもやっぱり、そこに目がつくのは稔さんだからなんだろうなと。

     

     うんうん。やっぱちゃんと歌詞を聞いて叩く人なんだね。この曲もやっぱりちょっとヘンテコが欲しくて、グッと入りながらもちょっとふわっと足掬う部分が欲しくて、「新聞広告が効いたのだろうか」。このあとの『ロックンロール・マーメイド』の「しまむら」とかもそうなんだけど、聞いてるときにちょっと物語から引き戻されるような揺らしがあって。

     

    ——そうですね、急に混ざってくるスパイスが、でも逆にこの世界のリアリティにもなっていて。

     

     そうだね。ここまでの作り込みが甘かったら、これはただのボケに聞こえるけども。もうボケに聞こえない場所で言っているから、「えっ?」って思うけど冷めない、というか。

     

    ——「ポラーレ・ポラロイド」の「ポラーレ」って、北極星のことなんですよね。『Walkin' Walkin'』にも「北極星」が出てきますが、なんというかお気に入りワード的なものだったりしたんでしょうか?

     

     どうだろうか。モチーフとしてはやっぱりちょっと安直だなと思うんだけどね。もっと言うと、ポアロの『愛・おぼえていますから』にも出てくるんでね。「♪今北極星さえ見失って」。目印となるべきもの。あんまり多様するのはダサいけれども、この曲にはあっていいかな。あって然るべき。

     

    ——「真っすぐおいで下さい」。

     

     うん。っていう言葉だなと思うね。

     

    ——最後、この旅人がまた別の旅人に声をかけられて、かつての爺さん側になるじゃないですか。そうやってずーっと続いていくのかなっていう余韻の終わり方で。

     

     そうだよねえ、やるよねえ(笑)テクニックを感じる。テクで書こうとは全然してなくて、わーっと3番まで作って。そしたら4番で「ディーッ!」とかが生きてきたり、「そうか、ずっと写真を撮ってきたのに二人の写真はないのか」とか。今まで1番、2番、3番で繋いできたものが、全部ここに集約して。「世界の終わりと皆様の 益々の発展を お祈り致します」、ヘンテコな言葉があって、スタートに戻ってくる終わりを作って。「この世界はループしてるのか? そういう形で」っていうのは……我ながらテクいねえ(笑)。

     

    ——4番偉かったですね。

     

     4番は偉いよ〜。これを考えずに1番書いてたなんてね。

     

    ——やっぱりそういう抑揚・緩急というかが、絵本のページをめくるみたいに作用するから、尺の長さを感じさせないのかなって思いました。

     

     そうだね、こんだけ物語だとね。そして小幡さんも偉い! アレンジほとんど一発OKだったもん。完璧だなって思った。

     

    ——すごい!

     

     一箇所だけだね、「♪俺もすっかりポラロイド爺さん / 世界の終わりのポラロイド爺さん」……。リットして終わるパターンで最初あがってきて。「ごめんなさい! 後奏付けてください、俺これで終われる自信ない」って。それで終わっても格好いいんだけど、エンドロールが流れてほしいなって思って。後奏が始まって、少しカメラが引いて、エンドロールが流れるから、ここに何か余韻と、また繋がっていく最初の話みたいなのがあるなと思って。ボーカル力があったらそれでも終われたなと思うけど、俺ビビったんだよね。

     

    ——でも確かに、この曲に必要なアレンジだったように思います。

     

     うん。どっちもよかったんだろうけどね。これ、長い割には意外と言うことがないな(笑)あまりにも物語すぎて。

     

    (つづく)

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