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    【無料全文公開】夢とうつつが交差する、見えない街への案内図。鷲崎健 5thアルバム『えくぼヶ原飄夢譚』全曲インタビュー④(永井慎之介)

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    2025/09/04 19:00

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    前回までのインタビューはこちら
    その①
    その②
    その③

     

    ■ 釣りメカ日誌

     

    ——さて、『釣りメカ日誌』です。キャッチーな情報として、鷲崎さんがマンドリンを弾かれている。

     

     そうなんです。ほぼ初めて、レコーディングで。ギターすらほとんど入れたことないのにね。

     

    ——今、向こう(トカトントンのライブスペース)にあるやつですか?

     

     そう。別に何か理由があるわけでもなくて。お金がたくさん集まったので、ミュージシャンはいくらでも呼べるんだけど、これコード弾いてるだけだから。「わざわざコードを弾くのにマンドリンのプロ呼んでくるのもなあ……じゃあ俺が弾こうか」ぐらいだったんですよ。

     

    ——ファンにとっては、クレジットで見つけると嬉しいポイントです。

     

     ちょっとね、びっくりするよね。マンドリン、あんま弾けないんだけどね、コードぐらいは。

     

    ——レコーディングはいかがでしたか?

     

     一発だった。本当にいいと思ったのか、録ったあといろいろやってくれたのかわからないけど、レコーディング自体はあっという間。マンドリンって弾き慣れないから、場所が安定しないんだよね、丸いし、硬いし。

     

    ——小さいですしねえ。

     

     あれはずいぶんギタリストに弾きやすいマンドリンなんだけど、それでもちょっと大変だったね。

     

    ——買われたというか、使い始めたのって最近ですか?

     

     あのマンドリン自体は、このために買った。結構高いんだけど、割とギタリストでも弾きやすい。実はフラットマンドリンも、丸いやつもどっちも持ってるの。フラットでもっと硬いやつも持ってるんだけど、これが一番弾きやすくて。楽しいっちゃ楽しいよ。

     

    ——この音色がいい感じに、海釣り感、海の広ーい感じを出しているというか。

     

     そうだねえ、これも広義ではケルティックなサウンドなんだけど。これもなぜ作ったのか……あ、でもこれはタイトル先行だな。

     

    ——ダジャレスタートというか。でも最初からご主人はサナトリウムにいて……悲しい死が見えてますもんね。

     

     そうなんだよ〜、悲しいね。のくせに途中の「♪サワラ イワシ〜」。だから佑磨に言われたの、「なんでそうやって悲しい曲で途中にボケ入れてくるんですか?」。ボケじゃねえよ馬鹿野郎、勝手にボケにすんなよ、って怒ったのを覚えてますね。

     

    ——……ボケじゃないんですか?

     

     えっ、ボケじゃないでしょう。「♪サワラ イワシ メダイ サバアジ」。

     

    ——だって、「サバアジ」は絶対「カワハギ」のためにいるじゃないですか(笑)。

     

    (笑)。もう思い出せないんだけど。「俺は釣り専用のロボット」。俺、なのがいいよね。

     

    ——そうなんですよね。自分の頭のことを「頭部」と呼ぶ割には、一人称には人間味があって。

     

     ね。でも叫ぶ機能はついてないの。これも坂田靖子だったのかなあ。

     

    ——ああ〜。やっぱ通底するものがあるんですかね。

     

     うん、俺の頭の中に浮かんでるロボット、全然人型じゃないの。もうR2-D2より何もできない……坂田漫画に出てくるの、そういうの。だからどうやって釣ってるのかわかんないけど。

     

    ——釣竿用のスロットだけがあるのかもしれないですね(笑)。

     

     そうそうそう。そして大変悲しい。自分の曲の中で最も人が死んでる……というかもう世界が(笑)。

     

    ——スケールが違いますね……その、釣りメカのけなげさは大変よく伝わってくるんですけど、そのための犠牲が大きすぎて(笑)。

     

     はははは(笑)そうなんだよね。

     

    ——「けなげなのはわかりましたから……!」ってなっちゃう。

     

     つらい?(笑)

     

    ——つらいです(笑)。

     

     そうだね〜、つらいよね。幸せになってほしいよね。無責任だね(笑)作家というのは。こんな悲しい物語を書いて、人の心に傷をつけたりしてるかもしれないのに。

     

    ——悲しくなくしようとすればできましたか?

     

     でも最初っからサナトリウムなんだもんな。

     

    ——そうです(笑)まあ悲しいとしてもマグマレベルではなかったかもしれないというか。

     

     かもね(笑)でも本当に思い出せないの。最初からこの終わりがあったのか……どうやって書いたんだろうか。バンバン書いてたときだからわかんないな。ご主人と一緒にしないんだもんな、釣り。

     

    ——一度もしてないですね。

     

     一度もしてないんだよね。

     

    ——最後、『アコギFUN!』音源ではもう1〜2周くらい「俺は釣り専用のロボット」を歌って終わっていったんです。だからその……無限の中に消えていく感みたいなものは(笑)あったのかもしれないですね。

     

     はははは(笑)。やっぱその集中力をもって人前で初めてやるテイクのよさってのはあんだね。ごめん! 思い出せない(笑)ちょっと何も思い出せないな、この曲。

     

    ——じゃあ、以上で!(笑)

     

    ■ 銀河鉄道の朝

     

    『銀河鉄道の朝』。これも(1Aから)順々で作ったね。「銀河鉄道の立ち食いそばは のびた麺と星の天ぷら」。

     

    ——まさにこの書き出しからということでしたもんね。「銀河鉄道で曲を書こう」という気持ちがおありだったんですか?

     

     銀河鉄道で書こうと思ったかわかんないけど、「銀河鉄道の立ち食いそば」って言葉が浮かんだんじゃないのかな。「あっ、変なの、銀河鉄道の立ち食いそばって」。「立ち食いそばがあるってことは、人がめちゃめちゃ使ってるってことだもんな。銀河鉄道がそういうふうになっている世界かあ」、それで書いてみるかと。

     

    ——じゃあやっぱり大喜利なんですね。

     

     そうそうそう。で、揺さぶりだね。「そういや子供の時読んだっけ 課題図書の宮沢賢治」。じゃあ俺らと同じ地平にいる人がこれに乗っているのか、っていう揺さぶりの中で、カムパネルラ、ジョバンニ、ザネリ、鳥捕り。これはだから、「無意味な幸せ(『移動式正月団』)」と同じ感じのものというか。鳥捕りは原作に出てくるんですよ。飛んできた鳥をパッと捕まえて、それが「あれ、さっきまで鳥だったのに、お菓子になってる」。それを乗客に、パキッて割って配るシーンがあって。で、もう1番書いちゃったから2番は肩ぶん回してね。

     

    ——うんうん。そして一気にリアルに寄っていく。

     

     この2番は、いろんなところで言ってるんだけど本当にあった話なの。俺が、歌詞では中央線になってるけど総武線で、人が飛び込むのを見ちゃった。電車がこっちに来るなと思ったら人がバッと飛び込んで、「うわっ!」って思って、一瞬で俺は後ろを向いたの。電車がガーッて止まって、そしたら本当にここに書いてある通り、怖かったのか勢い余ったのか、その電車の向こう側にその人はいて。男の人か女の人かもわからない……多分女の人だったかも。

    異常だと思った、そのホームにいる人たちがみんな写真を撮りだして。俺の近くにいたおばあさんが、「痛いって言ってるよ、助けに行かなくていいの」みたいなこと、俺に言ってきたんだよね。俺、本当に何もできなくて、怖くて、そのままマジでJRから出ちゃって。その日は用事があった、というかBerryz工房のライブを見に行く日だったんだけど。

     

    ——わあ、そんな日に。

     

     そう(笑)。タクシー乗ったのか、他の線に乗ったのか忘れたけど、まあ完全にその日の話。

     

    ——でも、多分それ(恐怖)がとても自然な人の反応というか。写真を撮るのは本当に異常だと思うし。

     

     本当に。

     

    ——うーん……おばあさんの気持ちも、まあわからんでもないが、ですよね。

     

     うんうん。特にニュースにもなんなくてね、ということは大丈夫だったのかなと思うんだけど。とにかく俺はそれを、ここの歌詞に入れようと思ったんだね。そうしなきゃと思ったんだ。だからエッセイに近いね。嘘も入れたエッセイ。

     

    ——そうですね。

     

     そしてねえ、これですよね。「コーヒー ビール JAXA内弁当 / シャボン玉 宇宙の歩き方 ビッグコミックGALAXY」。楽しい〜(笑)。

     

    ——ここは何回聞いてもとっても楽しいですね。

     

     ね。枕木も変だけど。「枕木あんだ」って感じだね(笑)。「退屈を目一杯詰め込んで 一体僕らどこまで行くの / ほらもうすぐ地球が見えなくなる / 思わず少し手を振ってしまう」。「無重力車両では子供たち 奇声をあげてくるくる回る / 「望郷」という駅は停まりません 乗客の皆様ご理解を」。うわー、なんか意味がありそう(笑)。

     

    ——でもなんか「子供たち」と「望郷」が対比になっているような気はしました。

     

     うんうん。

     

    ——だし、こんなに音色が楽しいのに、ずーっと寂しくて、聞いていてとても人恋しくなるというか。

     

     何が悲しくて、何がそうさせるのか……人がいない歌ではないのに。

     

    ——故郷を置いてどこかに行かなければいけない寂しさ。

     

     そして「俺たちは生まれつき故郷を置いてどこかに行かねばいけない宿命を背負ってるんだ」って言われてる、みたいな歌だもんね。そう言っているかはわかんないんだけど(笑)まるでそんな歌だもんね。泣いちゃうね。阿部くん(阿部草介。学園祭学園)も泣いていた。

     

    ——いや、泣きますこれは。ちょっとごちゃっとしたミックスの状態でゴーサインを出した、というようなお話もお聞きしました。

     

     ゴーサインというか、逆に「ごちゃっとさせて」って言った。楽器を適正の位置に置くことは可能だけど、これはもうホームパーティーみたいに、フィドルの人がいてピアノの人がいて打楽器の人がいて、みんな家でやってるような感じで。だから逆にバランス取らずに、全部が等距離というか、ごちゃっとうるさい感じがいいっていう話をして、やってもらった。

     

    ——こんなに寂しいのに、パーティー感は確かにすごく。

     

     そうなんだよねえ。音がガチャガチャしてればしてるだけいいなと思って。長さ感じない? この曲も結構長いんだよね、Aメロが4回あって。3ならまだセオリーなんだけど、4は長いかなあ、と思いながら書いたの。でも、まとめられなくて。

     

    ——でもこれも、さっきの絵本の感覚じゃないですけど。

     

    「次どうなってくれるんだろう」という変化はね、いちいちあって。

     

    ——あとクラファンのレポートで見ていたのが、稔さんのリズムへのこだわり。電車の走行音のようにも感じるなと。

     

     素晴らしい、本当にそんなに寄り添って作ってくれる人なんてね。これは年末に芝居にもなりましたし(『思春期が終わりません!!10周年記念舞台 「銀河鉄道の朝」』)。そっちの思い出もある。自分の作ったものが、アルバムになる前に二次創作されるという(笑)。

     

    ——そうですね(笑)残念ながら見にはいけなかったんですが、どうでしたか?

     

     4回見て、4回泣いた。

     

    ——わあ。この一曲だけではなくて、他にもアルバムの曲が織り交ぜられていたんですよね。

     

     そう、いろんなのが入ってるんだけど。面白かったなあ、自分の作品がそんなふうに、しかもジリさん(川尻恵太)が作ってくれるなんて。

     

    ——ご自身では導かなかった方向に進んでいくのが。

     

     そう。このアルバムの一番最初からそうで。自分が書いた曲が、俺の頭の中に明確なイメージがあるんじゃなくて、俺はもうアコギで作っちゃった時点である程度できあがっちゃってて、それをいろんな人がいろんなところに、玉突きみたいにして連れてってくれる感じが楽しいというか。なので『銀河鉄道』のお芝居も、「いや、そういう意味で書いたんじゃないですけど」みたいなところはもちろんあるんだけど、思いもよらないところに連れてってくれるのが面白かった。


     ラジオもずっとそう。一人喋りは全然できなくて、でも誰かと喋ってると……「まさか俺、逢田梨香子とこんな話すると思ってなかった」みたいな(笑)「この人何なんだ!?」みたいな。で、逢田梨香子も思ってなかったところに、連れて行きたいし。そんな感じがあっていいね、全部の曲がそういう感じでよかった。

     

     

    ■ Walkin' Walkin'

     

    ——そして『Walkin' Walkin'』。

     

     これも、アレンジャー問題どうしようってなったとき、俺から稔さんに「一曲だけ学園祭学園に頼みたいと思ってるんだけど」。「いや、鷲崎さんが学園祭学園好きなのはわかりますけど、それはさすがに無理ですよ」と。「こんだけゴージャスな音作りで、こんなにお金をかけてて、そこに学園祭学園で、しかも学園祭学園のアレンジ力とか演奏力とか考えても……」。「でも、この曲ですよ? この曲、もう一回聞いてみてください」。「……なるほど、これなら行けますね」(笑)。「でしょ!?」。逆にゴージャスな環境だったらこの曲どうなったんだっていう。

     

    ——私が言うのは変ですけど、インディー感というか、キュッとコンパクトにパッケージされた感じが曲によく合う。

     

     もはや学園祭学園ってこういうアコースティックチームではないんだけども、でも昔ずっと佑磨がアコギ弾いてたときの学園祭学園の感じだね。アレンジも完全に任せちゃって。

     

    ——レコーディングもスタジオ新生活(学園祭学園の防音物件)で録ったんですもんね。通して聞いていてやっぱりこの曲だけは、音質、空間が全然違うなとは思ったんですけど、それであっていいというか、そうあるべき曲な気も。

     

     そうあるべき順番にもしたつもりではあるし、『銀河鉄道』のあとでね。

     

    ——以前の『喋れ(学園祭学園プレゼンツ 喋れ!!学園祭)』でこの話をしていて。少し脱線なんですが、この曲の会議の中で「新生活みたいな物件、いいな」っていうお話から現在のトカトントンの物件に行き着いたというような。

     

     ああー、そうだったかもね! いろんなものが繋がってんだなあ、偶然だけど。「昔の鷲崎さんが作ってくる曲のあの感じがして、僕はすごく好きです」って学園祭学園の誰だったかに言われて、じゃあ入れるかってなったんだよね。これも、なーんにもしないからね。ただ歩いてるだけの歌。

     

    ——アレンジもそんなに苦戦はされなかったんですかね。

     

     任しちゃったからあれだけど、そんなにはしなかったんじゃないのかな。楽器選びのほうが大変だったと思う。何で弾くか。

     

    ——「All other Instruments:学園祭学園」って書いてありますもんね(笑)。

     

     うん(笑)鍵盤ハーモニカとかね。あとはジャグのウォッシュボードとか。ウォッシュボード持ってんだよ? すごいでしょ。俺が買ったんだけど(笑)はははは。「俺が興味本位で買ったんだけど、使わないから阿部くんに貸してあげる」って。

     

    ——あと瞬間移動の音とか。可愛らしいですね。やっぱりお散歩ソングだと『日々WALK』がまずは出てきますが、それよりもこの曲は全然足取りが軽いです。

     

     そうだね。だって『日々WALK』は人生と照らし合わせてるけど、こっちは別に照らし合わせてないもんね。

     

    ——これらは割と鷲崎さんが散歩中に思っていることですか?

     

     まんまだね。よくこんなのやったよ、やきとり一本だけ買って、ちっちゃいビール買って。明確な場所があるの、あそこっていうのが。

     

    ——ちょっと好きだった人の家……とかもですか?

     

     そこはもっと大昔の、高校生とか中学生とかのときの話だね。(今だと)好きな人の家、知らないな。好きな人がいないし(笑)そうだね、本当にただ思ってるだけのことだね。

     

    ——でもやっぱり、数々の空想の中にぽっと鷲崎さんの素顔が見られると、嬉しいですね。

     

     メイク取ったみたいなやつが急にね。場所的にも……17曲目か。17曲目に急に舞台裏が出てきてるんだね。

     

    ——これ、クレジットにはないんですけど、アコギは鷲崎さんだったんですか?

     

     あ、本当だ! うわー、うっかり(笑)。最初はバッキングとソロを別にしようと思ったんだけど、そのまま一本でやっちゃった。

     

    ——間奏のフレーズとかもそうですよね。

     

     そう。ぽいでしょ(笑)。うっかりしてた、今気がついた。

     

    ——じゃあここはちょっと、テキストにしっかり残しておきます(笑)。

     

    ■ Shake

     

    ——『Shake』……これは……(笑)。

     

    (笑)。

     

    ——作るの楽しかったですよね(笑)。

     

     ははは(笑)。清志郎がね、『Shake』歌ってるの。大好きな清志郎が、大好きなオーティスの曲をやってるのに、清志郎の日本語バージョンがダサくて……仕方ないんだけど。しかもオーティスのバッキングだったメンバーと一緒にやったりしてた、そういうライブがあったの。「あれより俺のが格好いいの作ってやるぜ!」と思ったけど、思いつかなくて……。ボケるしかない!(笑)はははは。


     格好よく、清志郎と違う『Shake』の日本語詞になるにはどんな方法があるかと思うと、もう『Shake』というわけのわからないもの、その正体はもう誰にもわかんない、ただそれを歌う……にしちゃえ! だね。

     

    ——ちょっとこう、『ズンドコベロンチョ』感というか。「何かはわからないけど、みんな大好きな『Shake』」。

     

     そうだね(笑)これはもう、いくらでもだったね。

     

    ——これは、作られたのはいつごろですか?

     

     これはでも、訳詞ブームのときにやってたのかな。だからちょっと前だね。

     

    ——鷲崎さんは全然そんなつもりはないかもしれないですけど、一応と思って原曲の歌詞を読んでみまして。明確な和訳をしている人のサイトとかは見つからなかったんですけど、ざっくり英語詞を読んでみると、「教えてやるよ、シェイクってのはな」みたいな感じだったんです。なので……これもまあ、そうか、と(笑)。

     

     あはは(笑)そうだねえ。本当だわ。

     

    ——このボケまくりの曲で、サックスに武田真治さんというとっても贅沢な。

     

     そうなんですよ。せっかく武田さんに「参加しますよ」って言ってもらえて、でも参加してもらう曲ねえなと、どうしようと思って。で、これ小幡さんに(アレンジ)頼んだから、じゃああの『ガキパラ』のチームでやってもらうってことにしちゃうのが、一番いいなと思って。しかもブリッブリに吹いてもらえるし。一緒には録れなかったんだけど、まあ〜派手なやつを入れてくれて。

     

    ——向こうで録って送ってくださったんですよね。

     

     そうそう。一回目のテイクが来て、「全然いいんですけど、もっと派手にしたのも聞いてみたいです」。それでもう一本もらって、「じゃあ、本当にもしよかったらなんですけど、もう2〜3本ぶち切れた、ぐちゃぐちゃなやつ送ってくれませんか」って。武田さんも「やっとShakeを掴んできた気がします」(笑)。

     

    ——(笑)わあ、ノリノリだ。

     

     そうそう。「白亜紀の地層からShakeの頭部が見つかりました」ねー。

     

    ——一番好きなShakeはどれですか?

     

    「白亜紀」好きだけどねえ(笑)。「遅刻ギリギリ! でも朝 / Shakeならメイクも簡単」ってところは原曲の譜割りとすごく合ってるの実は。「A Ring-a-Ling-a-Ling……」、電話が鳴るみたいなところなんだけど、それと「ギリギリ」がね。どれが好き?

     

    ——わあー。「第一シェイク発見」はキャッチーで好きですけど。うーん……「就職率」かなあ。

     

     はははは(笑)「就職率が上がると言うし」。

     

    ——それか最後にさらっと入っている「Shake入れ」。

     

    「Shake入れになってます」ね。これも現場で作ったんじゃなかったっけな、確か。

     

    ——現場でもいくつか作ってるんですね(笑)。

     

     そう。「Shake!」のコーラスをいろんな人にやってもらって、「学園祭学園も一人ずつやってくれ」ってラフィンが言って。最後のワアーってなっちゃう、リズムから外れるところを。簡単じゃないじゃんそんなの、恥ずかしいし。みんなでやるんだったらいいけど、一人ずつ入って。「Shake! Shake!」……合ってるか間違ってるかわかんないけど、いろいろやってみて。「ありがとうございます。じゃあ、いろんなやつ混ぜて使いますね……」、「おい。お前やんねーのか!」って言って(笑)ラフィンに。

     

    ——おおー!(笑)入ってるんですか?

     

     あいつが切ってなければ(笑)。「お前もやれよ」っつって、無理やりやらせたの。みんなに恥ずかしい思いだけさせて、ねえ?

     

    ——ラフィンさんのみぞ知るだ(笑)素晴らしいですね。そう、別録りとは思えない大騒ぎ感。

     

     ねえ。楽しかったよ、やっぱり。本当これ以外に『えくぼヶ原』の前に置く曲なくて。

     

    ——そうですよねえ。

     

    『Walkin' Walkin’』じゃないなと。『Shake』はどこにでも置きようあるけども、『えくぼヶ原』の前となるとね。大騒ぎ、大暴れのこの曲があって、『えくぼヶ原』かなあ。『えくぼヶ原』が生きる他のやり方はあったのかもしれないけど、でも全体を考えたときに……『銀河鉄道』、『Walkin' Walkin'』、『Shake』という、感情の流れはよくわかんないけど、この大騒ぎの大パーティーがあったあとに『えくぼヶ原』という流れ……しかないかなと、そのときは思ったね。

     

    ■えくぼヶ原

     

    『えくぼヶ原』は元々……よいしょ(アコギを手に取る)。今は「♪〜(現在の『えくぼヶ原』の歌い方)」だけど、最初「♪〜(軽やかな歌い方)」みたいな感じだったの。吉田拓郎がよくこういうの書いてて。ちょっとズンドコした、今だとダサいと言われる感じのリズムのフォークだったの、最初は。だけど途中から「あれ? これバラードにできるな、バラードにしたほうが書けるかなあ」と思って途中で変えたんだ。

     

    ——鷲崎さんの中でのアレンジの結果だったんですね。

     

     そうだね。どのタイミングで変えたとか、どこまで歌詞ができている状態で変えたとかはあんまり覚えてないんだけど、そうだった気がする。

     

    ——旧バージョンも『シャンゼリゼ』的で素敵ですが。

     

     あ、本当だねえ。あとはひょっとしたら、星野源コンプレックスのようなものがあったのかも……コンプレックスってほどでもないんだけど。『アコギFUN!』で『くだらないの中に』を弾いて。これぐらいのビートのこういうフォーキーもいいなあ、っていうのがどっか頭の中にあって、「そういうのもいつか書こうかな」と思ってたのと、『えくぼヶ原』がたまたまくっついたというか。「あっちのアプローチでもいいかな」って思ったのかもしれない。

     

    ——でも図らずもといいますか、この曲の夕暮れ感にはすごくマッチしてますよね。

     

     結果そうだったね。これはでも小幡さんのアレンジがとてもよかったからね。

     

    ——ぱっと見の印象だと、アルバムをまとめるために生まれた曲かのように思ってしまいがちですが、そこは本当に偶然というか。

     

     そうだね、偶然だね。『えくぼヶ原』を初めて歌ったのって、割とほぼ最後だと思う。

     

    ——2022年9月、とあります。

     

     いっぱい曲を作ってる時期の最後らへんだと思う。

     

    ——気づいたら、そのアルバムを俯瞰したような。

     

     そう。作っているときはただ楽しくて作ってた。あの架空の設定がいっぱい出てくるのが「楽しい!」と思って、ワクワクしながら書いてて。

     

    ——「ない言い伝え」で遊ぶというような感じで。

     

    「白夜神社のお祭りの日には / 今も必ず少し雨が降る」あたりとかね。こういう嘘のお祭りとか、言い伝えとかを作るのが楽しくて。「夜が怖いと泣く子がいて……」みたいな話って、あれ? それってどこにも載ってないんだっけ?

     

    ——地図(クラウドファンディング送付品 えくぼヶ原自治会クリアファイル)のほうに載ってますね。

     

     その心に魔が取り憑いて、街から夜がなくなってしまって。修験僧が現れて、その子供の心に憑く魔を捕らえて祠に閉じ込めて、そこから白夜神社という名前がついて。年に一回お祭りをして、魔の気を取り祓う……みたいな伝説。うちの親父が信じたんだよ、これ。えくぼヶ原の由来のくだりがネットに載ってて、親父が何かで検索して見つけて。「あのえくぼヶ原っていうのは、あれなんやろ? 鹿がどうとかなんやろ?」。「ああ、俺が作った話ね」。「いやいや、違う違う。なんか見つけたねん」。

     

    ——(笑)。

     

    「あっ、その鹿の話ごと全部俺が作ったの」(笑)。「えぇ!?」。親父を騙せました(笑)。

     

    ——ケンイチさん(笑)可愛らしい。

     

     ひら歌にある「うるう坂」とか、「自転車乗りのサーカスのピエロが / 虹の上を渡って行く」、「運動靴を高く高く飛ばせば / 飛行機雲に引っかかる」。全体的にメルヘンとか架空の伝承がある中に、「影を踏み合って笑う子供らの声 / おかずを分け合う恋人たち」っていう、ものすごくリアルというか、なんでもない風景にBメロだけが実はなっているの。

     

    ——本当だ。

     

     わざとというか、別に何か効果があるのかどうかわからないけど、ここだけそうしたんだよね。

     

    ——それによって、言い伝えがよりまことしやかになるというか。

     

     そうだね、多分そういうコントラストを狙ったんだね。

     

    ——「これらと同じ、並列に言ってることですよ」。

     

     そうそうそう。「ありふれた日々の魔法はぼんやり / 誰も気づかず叶ってしまう / 愛を歌っても歌わなくても / 二人は同じ夢を見る」……なんだかわかんないけど、救いがあるね(笑)。

     

    ——まことしやかであり、何気なくあり、歌を通して自分自身がそういう景色を右左に見ながら歩いてる感じ。そして俺も、魔法の一部にもうなっているのだ。

     

     うんうん。いつの間にか俺はもう誰かの魔法の一部なんだ、って思うような言葉だな……と思ったなあ。

     

    ——それが、えくぼヶ原の住人になる、ということなのかもしれないですね。

     

     うんうん、そうだね。変なエンディングだもんね。「愛を歌っても歌わなくても / 二人は同じ夢を見る」。キュッて締まってないのに……締まってないからか、緩やかに解き放されたのか。なんでこうしたのか思い出せないが。

     

    ——不思議だなと思って入ったけど、最後はそれもありふれているというか。そういう解放感なんですかね。

     

     かもしれない。「愛を歌っても歌わなくても、二人は同じ夢」……へえ〜。面白いこと書くね(笑)はははは。俺がインタビュアーだったら「どういう意味ですか」って聞くもんね。「そんなこと言われても……」って俺は言うし。

     

    ——そうですよね(笑)そうだろうなと思って来ました。

     

     はははは(笑)。

     

    ——『えくぼヶ原』で最後に日が沈んで、リピートでまた1曲目に戻ると……。

     

     はっ!

     

    ――『Talk to me baby』で「朝日がのぼるまで語り明かそう」となるんですよね。絶対に意図はしていないだろうと思ったんですけど(笑)でも美しいなって。

     

     ほんとだー。すごいね。俺は『Talk to me baby』を書いたときに、久々に書いたくせに「あ、なんかまた『ヨルナイト』のエンディングが変わったりするんだったら、これ使えるかも」って思って。だから、夜喋って、朝寝るの。

     

    ——なるほど! それで言うと、「ちっこい全部を知りたい」。これも、鷲崎さんのゲストに対する姿勢みたいにすごく感じるなって思ったんです。「君はそんなの大したトピックだと思ってないかもしれないけど、そこから……」さっきの逢田さんじゃないですが。

     

     そうだよね。君のちっちゃな本当を教えてくれたら。

     

    ■ 乱暴でも、未完成でもいい。君の中の物語を聞いてみたい

     

    ——最後に、今すでにアルバムを手に取っている人と、これから手に取るであろう人に向けて、一言いただけますか。

     

     もう(収録曲たちは)俺の手からは離れたから、みんながどう思うかはもう本当に……興味がない、はちょっと冷たいけど。俺が思うのは、『5分ドッグ』の続きをみんなが書けばいい(笑)。やっぱり楽曲が本当に緻密に、すごくいいサウンドになってここに並んでるからあれだけど、俺のファンはみんなある程度知ってると思うけど俺は本当に乱暴に書いて、できたからってライブでやってるじゃない。みんながそういうふうに曲を書いてるのを俺は聞きたいんだよな。乱暴でも、未完成でもいいから、わーって書いた君の中の物語を聞いてみたいな、とかはすごく思うな。

     

     

    鷲崎健(わしざき・たけし)
    1973年10月26日生まれ。兵庫県出身。ラジオパーソナリティー、MC、シンガーソングライター。
    大阪芸術大学在学中、伊福部崇と音楽ユニット・ポアロを結成。その縁で文化放送に作曲・演奏担当として紹介されたことをきっかけにラジオ業界へ足を踏み入れる。
    2003年『浅野真澄のスパラジ!』で初のレギュラー出演を果たし、以降『A&G 超RADIO SHOW~アニスパ!~』、『Voice of A&G Digital 鷲崎健の超ラジ!』、『鷲崎健のヨルナイト×ヨルナイト』などでパーソナリティーを務め、アニラジファンならびに業界から厚い信頼を博す存在となる。現在も複数のレギュラー番組を担当するほか、イベントMCとしても活躍。
    シンガーソングライターとしては2008年の1stアルバム『Silly Walker』以降4枚のフルアルバムを発表。番組タイアップや声優への楽曲提供なども多数。
    2025年からはライブハウス&スタジオ「トカトントン」を開業。ラジオステーションとしてすでに10を超えるレギュラー番組が配信されているほか、ライブイベントも複数開催されている。

    【聞き手】永井慎之介(ながい・しんのすけ)
    1994年10月9日生まれ。福島県出身。
    バンドzanpanのベーシスト、シンガーソングライター、ライター、クリエイター。
    2025年5月、地元・福島県郡山市でライブイベント「”はるのあらし” in 郡山」を主催。鷲崎健&内田稔、学園祭学園をメインゲストに招き、自らも出演。

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